女子アナ、というものが持て囃され始めたのはハテいつごろの時代からだっただろうか。容姿端麗、頭脳明晰、そして高給取り。アイドルほどファンに媚びる事も無いのでどこぞの野球選手とあっさりゴールインなんて話もよく聞く。
「こんにちは。3時のニュースの時間です。」
しかし今ゾロが小汚い定食屋でせっかくの揚げたてチキンカツに齧りつきもせずに食い入るように見ているのは、右上に「アナログ」と文字の浮き出た小さな箱の中でニュースを淡々と伝える男性アナウンサーだった。名前は黒足サンジ。どこそこで有名人が交通事故を起こしただの、ダメダメ総理大臣がまたダメな発言をかましただの、すらすらと噛みもせず原稿を読んでいる。口下手でボキャブラリーも少ないゾロには真似できそうに無い。
(黒足サンジの3時のニュース、ってやかましいわ。)
そんな駄洒落で抜擢されたに違いないアナウンサーは、そのゾロの心中のツッコミを受けるでも跳ね返すでもなく完全にスルーしてニュースをお届けしていた。確かに容姿は端麗だ。眉毛は喧嘩を売っているのかと思うほど巻いているが。あと、お堅いアナウンサーにしては髪の毛がダラッとしているが。それでもスーツを着こなして背筋をピシッとして張りのある、そして甘くも聞こえる低い声はボロいテレビからでもその質の良さが窺えた。だが、サンジが3時ってお前。
これなら田中太郎がやろうがじゅげむじゅげむがやろうが同じだ。せっかくサンジが3時なのに。
(コイツがこんなに気になるのはそんなツッコミ待ちをしてやがるからだ。ああ、突っ込んでやりてェ)
で。
「イデデデデェェェェ!テメェッ、なッ、クソ変態野郎ッ、ひっ、人様のどっ、どこに指、指突っ込んでやがるっ!!」
「いや、隅から隅まで解してくれっつーから。」
うっかりゾロの地元にロケでやってきて、うっかり泊まったホテルで、うっかりあんま師を呼びつけ、うっかりそれがゾロだったアナウンサーサンジ氏は、「ずっとツッコミてぇと思ってたからこれからいろんな意味で突っ込むからな」などとのたまう男に隅から隅まで解されてしまったらしい。
リリース日:2010/08/21