Under the mistletoe

 クリスマスとかはあからさまに興味なさそうだし、どっちかっつーと仏教徒顔だし、おれがケーキを用意してたなんてことは言ってもねェからそれこそ想像もしてねェだろうけど、普段毎週末のようにアポ無しで人んちに来てメシ食って寝て昼ごろ帰っていくくせに、この週末だけは来ないってどういう事だよ。

 

 そもそもてめェがおれに予定あるかって聞いたんじゃねェか!意味ありげな顔で!普段のおれならクリスマスはレディと過ごすのに、てめェがあんな顔しておれの手を掴んで聞くから、ねェよ、って答えたんじゃねェか!嬉しそうに「そうか」って笑ったのはアレか、おれがクリスマスぼっちだから笑ったのか。

 

 もうあんな奴二度と家に入れてなんかやるか。ケーキも一人で食う。なんだか非常に泣けてきてしまって、もうすぐ26日0時を指そうとする時計の短針を睨み鼻を啜った。その時、家のドアがガンゴン殴ったり蹴られたりしている様な音がした。なんだクソ。討ち入りか。今のおれは無敵だぞ。阿修羅だろうがなんだろうが返り討ちにしてやる。

 

「んだゴルァ!」

 

 そこらのチンピラならチビって逃げ出しそうなドスの聞いた声で蹴られたドアを開けて凄むと、そこにはなんか泥とか草とかを身体につけたマリモがいた。なんだかひどく焦っているような顔だ。

 

「てめこの今更ッ」

「今何時だ!」

「あァ!?」

「今何時か聞いてんだおれァ間に合ったのか!?」

「…0時になる5分前だが、おれぁてめぇをもうこの家にはもがが!」

 

 啖呵を切ってやろうとした瞬間唇を塞がれた。男とするキスなんて初めてだ。だから当然ゾロともこれが初めて。ファーストキスってもっと甘酸っぱいものなんじゃねェのか。ちょんッと触れ合ってお互い目があってキュンってして笑い合ったり目ェ逸らしたり、とにかくそういう感じじゃねェのか。そんなモンこいつとじゃありえないっつーのはわかっていたけどしょっぱいだけならともかく何でおれの口の中でこいつの舌がグネグネ動いてんだ。喉ちんこまで舌突っ込もうとしてねェかこいつ!

 

「な、なにひやが」

 

 やっと開放されたと思ったら腰が抜けて抱きかかえられた。散々口の中を舐られ犯され身も心も穢された気分で文句を言おうとしたら、奴のほうが不満げに眉間に皺を寄せた。

 

「てめェが言ったんだろ、クリスマスはヤドリギの下ならキスをしてもいいんだって」

 

 言いましたっけそんな事。記憶には無いが知識としては確かにおれはそれを知っているので、酔っ払ったときにでも言ったんだろう。

 

 「見つけんのに苦労したぞ」などとほざいているマリモの頭を嫌な予感がしてよくよく見てみれば、緑髪に絡んでいる草はヤドリギの葉っぱだった。もしやとは思うが、ここに顔を出すのがこんなにクソ遅くなった理由というのは、このヤドリギを探していたからなのか。アホにも限度ってものがあるだろう。しかも泥が身体についてるってことは店売りのじゃなくて自生してるのを探してきたってことなのか。どこまで行ったんだ。

 

 そうこうしている間に壁にかけてあった時計が0時を知らせた。あ、とマリモが悔しげに声を上げる。いくらヤドリギパワーがあろうと、クリスマスを過ぎれば当然もう許されない無体だ。それでも腰に回した手はそのまま、自分が迷子だったのを棚に上げてお前がドアをもうちょっと早く開けてればなんて勝手な事を抜かしている。

 

「おい」

「ん?」

 

 腰どころか膝も笑うほどにさっきのキスで骨抜きにされかけたおれだが、このままマリモのペースに飲まれるわけにはいかない。なんたっておれはマリモより恋愛経験豊富な愛のハンターなのだ。こんなアホで童貞なマリモくらい掌の上でコロコロしてやるくらいじゃないと駄目なのだ。

 

「あの時計よ」

「おう」

「ちょい、進んでる、かも、しんねェ」

 

 若干言葉が途切れたのはアレだ、ご愛嬌だ。これで理解ができなきゃ今度こそ家には入れてやらねェと思ってたら、おれはいつの間にかソファまで運ばれていた。どさりと落とされて視界がぶれる。

 

 何事かと思ったらおれからようやく離れたマリモが壁掛け時計を勝手に外して後ろの調整ネジをぐりんと回し、ご丁寧に電池まで外してやがった。0時近くを指していた針が、十一時半ちょいすぎくらいを指す。ヤドリギを頭に乗せたマリモは鼻息も荒くおれの元まで大股で歩み寄ってきて、いけしゃあしゃあと

 

「直した」

 

 とか言ってる。比類なきドヤ顔だ。蹴り飛ばしたい。だがどうやら膝がまだ笑っているらしい、ソファから立ち上がれない。そうしている間にマリモがおれの脚の間に膝ついて圧し掛かり、自分の頭の上からヤドリギを抜いておれの髪に刺した。ちくちくしていてえが、それよりゾロの顔があまりにも近かったので反射的に手で押しのけた。

 

「んだよ」

「なんか言うことあんだろうが、メリーとかクリスマスとかよ!」

「あ?おう、メリーメリー。いいからとっととすんぞ」

 

 なんつー情緒のねェ野郎だ。呆れてそう言ってやろうとした口は、また塞がれた。まあ、ヤドリギの件は記憶にないにしても、時計の件はテメェで撒いた種だ。収穫まできっちりとおれがこなしてやらなけりゃ。そう思ってリードしてやるつもりでちょこっとだけ舌を差し出してやった。ゾロが驚いたように目を見開いているのが見えて、口端が上がったが――

 

 

 

 その後の記憶は曖昧だ。

リリース日:2010/12/26

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