ひとり、ふたり

 サンジは森一番の料理人だ。どんなやせ細った兎を持っていっても、おなかをいっぱいに満たす食事を出してくれる。サンジはメスが大好きだ。若いメスには将来が楽しみだと褒める、年が同じ頃合のメスには飽きることのない美辞麗句。妙齢のメスには敬意を払い讃える。サンジはきつねだ。金髪の頭の上には先っぽがちょっとだけ白い耳がつんと立っていて、黒いスーツをきっちり着込んだ尻には、これもまた先っぽが白いふさふさふかふかの尻尾が生えている。

 

 そしてサンジはひとりだ。友達は大勢いるが、朝起きるも夜眠るもひとりだ。

 

 家族と言うものがいなかった。恋しいと思ったことは無い。もともと知らぬものを恋しいと思えないのは当然のことだ。

 

 サンジはメスが好きだが、メスもまたサンジが好きだ。なんたって狩りはうまいし、サンジは強いオスだから。けれどサンジはメスとつがいになる事を考えた事はない。何しろもし子供が出来たとしてもどうすればいいかわからない。わかるのは子供の肉は柔らかくてうまくて、内臓も綺麗で捨てるところがないという事くらいだからだ。自分の子供にだってそんな風にしか接する事が出来ないサンジを見たら、きっとメスは悲しむだろう。だからつがいにはならない。メスが悲しむのはダメだ。

 

 サンジは強いオスだが、そんな理由で自分を欠陥品だと思っている。動物は種を残してこそだ。その本能をないがしろにしている。そんな自分が未来ある可愛いメスの腹に自分の種を植え付けるなど、許されることではない。だからサンジは生まれてから今までずっとひとりだった。そしてこれからもひとりだ。

 

 

 

 

 冬が近い。最近は、年寄りが言うには人間のせいで季節が狂っているらしい。秋が来たような気がしないうちに、サンジの尻尾は寒さを敏感に感じ取って冬毛を纏い始めた。その自慢の尻尾をゆうらゆうらと揺らしながら獣道を歩いていると、サンジの鋭敏な嗅覚が濃厚な血の匂いを感じ取った。この辺はサンジのテリトリーだし、このあたりでサンジに楯突くやつなんていやしないから、大方誰かが捕り損ねた獲物が命からがら逃げてきたんじゃないかと思う。

 

「狩りに行く手間が省けたかなァ」

 

 逃げた先がおれのテリトリーだなんてラッキーなヤツだ、なんて思う。だって自分は一流の料理人だから、おいしい保存食にして骨まで有効活用してやれる。その血の匂いを辿っていくと、動物ってやっぱり血の袋だなあ、と思わせるくらいに血にまみれた何かがいた。何の動物かは血の匂いがきつすぎてわからないので近づいてみた。

 

 倒れていたのは子供の虎だった。血は胸から流れている。深い深い傷だ。よーく見ると内臓も見えてる。脚なんかぶっとくて、生きて成長すれば大きくなっただろうななんて思わせた。きっとサンジよりも大きく。珍しいのが頭のところの毛が血で殆ど染まっているが、緑色なのだ。こんなのは見たことがない。家に持って帰ったら毛をむしる前に血を落として本当の色を見てみたいなと思った。

 

 そもそもこの森に虎なんていなかった。一体この虎はどうやって迷い込んでこんな怪我を負ったんだろう。血はまだ流れ続けていて、狩りどころか血抜きの手間も省けそうだ。干し肉にして冬の大事な食料にしてやるからな。サンジは長い足を折り曲げて虎の肩を掴み、そして毛に隠れていない方のくるんと巻いた眉毛を、おや、と持ち上げた。

 

 死にたてでまだ温かいのかと思ったら、どうやらまだ生きていたらしい。このまま放って置けば確実に死んだだろうが、サンジはどうやらタイミングを誤った様だ。サンジが虎に触ったから、死を迎えるのを気を失って待っていた虎が目を覚ました。金色の目が見開かれ、開ききった瞳孔がそれでもサンジを睨みつける。強く強く、光を失う前にサンジの金色の光を目の中に閉じ込めてしまおうとするみたいに。

 

「……こりゃ面倒な事になったな」

 

 そもそも、サンジはあまり猫を料理しない。猫の肉はあまりうまくないのだ。皮下脂肪が多くて食べ過ぎると胃を悪くする。それに、サンジに料理を教えた男が言っていたのを、サンジはいつまでも覚えている。

 

―――猫は祟るぞ、チビナス。

 

 そう、猫は祟る。死ぬ前に目にしたものを、たとえ恨みなどなくとも祟る。最期に見たものを、自分を殺した相手でなくとも無差別に祟るのだ。そして虎も猫だ。今でもその目は白目を剥きそうなくらい不安定にぐらぐらしているくせに、サンジの顔をじっと見つめている。網膜に焼き付けようとしている。

 

「やれやれ……クソ虎め。祟られたら祟り返してやるからな。狐ナメんなよ」

 

 スーツに血がつかないように胸の大傷から今でもだばだばと血を流し続けている虎の首根っこを掴むと、歩いてきた獣道を戻っていく。家に着くまでに死んでしまったらそれはそれ、とりあえず血抜きを済ませて、傷みやすい内臓は早めに食ってしまおう。頭の中でレシピを組み立てながら、サンジは歩く。血の筋を道に刻みながら、大きな尻尾をゆうらゆうら揺らしながら。

 

 

 サンジは充分にひとり分の保存食を準備していたにもかかわらず、その年は冬を越すのに酷く難儀した。数年前の出来事だ。

 

 

 

 この虎はさぞでっかくなるんだろうなあ、と辟易していたサンジだったが、案の定虎はみるみるうちにでっかくなった。教えてもいないのに人型になる方法も覚え、今はもうずっとサンジと同じように人型で生活している。サンジの両手で抱えられる程度の血の袋だった虎は、今ではサンジの胸の少し下くらいまでの背丈になった。つれて来た時の様に片手で首根っこ捕まえてぶら下げて移動するなんてことはもう出来ない。

 

 飯だけは餓えない程度に食わせてやっていたが、毎日「鍛錬」とやらをするようになって益々分厚くなった。水を浴びて毛が濡れてホッソリと縮んだ子虎を指差して笑ったのはまだそんなに昔ではなかったはずなのだが、はて。まあ不健康で世話をかけられるよりはましだ。

 

 名前はゾロというのだそうだ。自分がどこから来たのかわからないという。どうやら壮絶な迷子らしい、帰巣本能というものが完全に欠落している。馬鹿なやつだなあ、と思ったが、それはつまりこの虎が怪我が治ってもここから出て家に帰るつもりがないという意味だったことを理解した頃にはサンジもふたり前の食事を作る事になれてしまっていた。

 

 ゾロと一緒に暮らすようになってから、虎を恐れた今までの知り合いたちはサンジの家にあまり来なくなった。どうということはない、もともとサンジはひとりだ。ゾロと暮らしていても、それは変わらない。ただ、女の子の所へ遊びに行くとき、ゾロの匂いがすると女の子は怖がるので、花の香りをつけていくようになった。これがなかなか好評だ。ゾロには不評だ。くさいと言われたが知ったことではない。

 

 胸の傷は人間にやられたらしい。もう痛くもかゆくも無いそうだが、大傷の後は残った。サンジが七面鳥の腹を縫い合わせるみたいにして雑に縫ったものだから、その痕も雑だ。今はぴんぴんしているが、今もたまに疼くらしい。雨の日にバリバリと掻き毟っているところを何度か見た。本当なら死ぬような怪我だ。虎というものは皆こうなのだろうか。

 

「なあきつね。これでなんか作れ」

 

 

 獲物は捕ってくる様になったので、食わせてやらざるをえない。丸々と太った兎だ。昔はお前もこれくらいだった。そしてこうやって血を抜いて、お前を食うつもりだったんだぜ。そんな話をゾロに何度もした。そこに意味はなく、ただ本当にそう思ったから、料理をしているときにゾロが近くに寄ってくるとそのときの事を思い出すから、口にしただけだ。ゾロは毎回神妙な顔で聞いていた。それくらいしか話すこともなかった。

 

 それからさらに三年も経つと、ゾロはすっかり大人になった。背の丈もサンジと同じくらいになり、サンジと暮らす家を二、三ヶ月空けることもあった。鍛錬だか迷子だか知らないが、二度と帰ってこないならそういって欲しいと思う。ふたり分の越冬の準備をしておいてひとり分が無駄になれば、その分どこかで誰かがのたれ死ぬのだから。捕るのは必要最低限。それが森のルールだ。サンジはふたり分を用意するか、今年は自分の分だけを用意するか決めあぐねていた。ゾロを拾った冬の様な思いはごめんだ。

 

 だが、蓄えがひとり分にも満たない秋の頃はじめ、それと同時にゾロの不在が三ヶ月目を数えたとき、狩りの途中でサンジは銃で撃たれた。サンジの毛皮を狙った人間の猟師の仕業だった。銃を弾き飛ばし頭を渾身の力で蹴り飛ばしてやったが、怪我をしていたせいで殺すまでは行かなかったようだ。脚を引きずって帰る途中、医者を目指しているという奇天烈な鹿がサンジを見つけてうまいこと脚に残った弾は取り出してくれたのでその怪我から死ぬことはなくなった。サンジは鹿の肉がうまい事を知っているが、同時に恩義というものも知っている。サンジの家にはいくらか保存食があるから平気だと、心配して家まで送ろうとする鹿を帰した。嘘だったが、鹿は安心したようだった。

 

 命は助かったが、狩りには出られなくなった。サンジにとって足は歩く為のもの以上に狩をするための大事な得物だ。秋口にこの様では越冬は俄然厳しくなった。ひとりということはこういう事だ。誰も助けないですむ分、誰にも助けられない。冬に入ってもゾロは帰ってこなかったので、また別の誰かの家へ転がり込んでいるのだろうと思った。不思議とゾロが死んでいるという考えには至らなかった。何しろあの虎は身体も大きく、そして強く育ったから。一体何を目指していたやら。

 

「んー……あと干し肉が……どれくらいあったかなァ……」

 

 ボンヤリと天井を見上げながらサンジはつぶやく。小さいときはゾロと一緒に眠った事もあるベッドは、今の自分にはとても大きいなと思った。大きくなったゾロはサンジと一緒に寝るようなことはしなかったのに、ゾロが床で寝ていた時よりも大きく感じる。きっと食べるものをへらして身体が痩せ始めたからだろうと思った。そういえば、鹿が置いていった塗り薬を塗って包帯を替えなければ。サンジがのろのろと立ち上がると、入り口のドアが大きな音を立てて開いた。頭にこんもりと雪を乗せたゾロだった。

 

「……貯えはねえぞ」

 

 ゾロを一瞥してサンジが言うと、ゾロは驚いたような顔をした。何を驚く事があるものか、ずっといなかったくせに、とサンジは不愉快な気分になった。いや、ふたり分用意しようと思っていてもどうせ出来なかったのだから同じことか、とサンジはゾロから視線を外して目的地を塗り薬をしまった戸棚から貯蔵庫へ向かおうとした。干し肉と、ある程度の麦ならまだあったはずだ。

 

「きつね。脚をどうした」

「別に。へまをやっただけだ」

 

 サンジがひょこひょこと脚を引きずる様子に、ゾロがはっと気付いたように雪を落としもせずに歩み寄ってくる。せっかく温かかった部屋はゾロが入ってきたことで一気に冷えた。なんだか酷くイラついていて、ゾロの頭の雪を下とすついでにべしべしと翡翠の頭を叩いた。ゾロはされるがままに雪を落とされ、そして手を離したサンジを唐突に抱き上げてベッドへと運んだ。

 

「何しやがる!」

「人間がやったのか」

 

 弱弱しく抵抗するサンジのズボンを無理やり捲り上げると、ほつれた包帯をゾロが解いて銃創を睨みつける。当然だ。銃を使う動物などいない。返事をしなくとも解るだろうと溜息を付くと、ゾロはいっそう細くなったサンジの脚を掌で感じようとするように撫で始めた。傷に触れないようにそっと触れ、傷を負っていない方も撫で、太腿、腰を撫で、艶の落ちた尻尾を根元から掴んで先まで掌を滑らせ逃がす。

 

「痩せたな。食ってないのか」

「ダイエットしたからな。レディは細いのがお好みなんだぜ、きょうび」

「きつね!」

「てめえはまたごつくなったな。そんだけでけェんじゃ山ほど食わなきゃもたねェだろう。もううちじゃあ養えねえよ」

 

 サンジを見下ろすゾロの目はあの時と変わらない金色で、あの時と変わらないまっすぐさだった。サンジをその瞳孔の中に閉じ込めようとするみたいにじっと見つめてくる。何か言おうとするゾロの口から鋭い牙が見えて、なんだかどうしようもなく、ひとりが寂しくなった。そんな自分がイヤでイヤでしょうがなくて、ゾロにはもう出て行ってほしかった。サンジは今までひとりだったのだ。これからもひとりだ。ひとりで生きて、ひとりで死ぬのだ。

 

 ただ、自分が死んだら、そしたら、ゾロに食われてやってもいいかな、と思った。あまり食うところは無いが、まあ少しずつ食えばゾロでも冬を越せるだろう。ゾロは眠ることが得意だから、虎は冬眠はしないが日がな寝続けて体力を温存するくらいならできるはずだ。そうしたら自分はひとりではなくなるな、と思った。ゾロの一部になるのだ。今「ひとりはいやだ」と弱音を吐くことなんか絶対にしたくなかったけれど、ゾロの一部になることを考えるのは、悪くない気分だった。自分を食ったらこのとらはまた大きくなるだろうか。そんな事を考える。

 

「おれを食え」

 

 は?とサンジが口を開けて問いかけた。思わず自分が言ってしまったのかと思ったのだ。けれど、耳に入ったのは虎の唸り声だ。なんだって?と聞き返すと、サンジの両肩をごっつい両手で掴んで、サンジの目を見つめたまま繰り返す。

 

「おれを食え、きつね。そのために肉をつけた。お前が猫は脂肪ばかりでうまくないというから、鍛えて赤身をつけた。あのウサギみたいにおれから血を抜いて、塩をして、おれで食いつなげ。おれで生きろ」

 

 サンジは眉間に皺を寄せた。それはまるでサンジがさっきまで考えていた事と同じようなことだ。

 

「おれをお前の一部にしろ!お前とおれはひとつになるんだ!お前に助けられたあの時から、ずっとずっと、そのために生きてきた!!」

 

 駄々を捏ねるみたいに、ゾロがわめいた。ゾロもひとりは嫌だったのだろうか。だから帰ってきたのだろうか。本当はずっとひとりは嫌だったのだと、このとらには言ってもいいのだろうか。なんだか熱が出てきたみたいに頭が熱かった。

 

「……お前みたいなのを食ったら、繊細なおれの胃が壊れちまう。それに、猫は祟るだろう。」

「祟らねえ。最期に見られるのが嫌なら、外の木で首を括る。血抜きの手間が省けるだろう」

「嫌なオブジェだぜ。レディが益々おれの家に近寄らなくなるだろ」

「じゃあどうすりゃいい。どうすりゃてめェとひとつになれる」

 

 むずがるみたいにゾロが身体を押し付けてくる。サンジは細くなって筋の浮いた両手をゾロの背中に回すと、ぽん、ぽん、と落ち着けるように背中を叩いた。ゾロの大きな傷を持った胸が気持ちいい。背中に触る手があたたかくて、それも気持ちいい。両足でゾロの腰を挟み込んで、待ち遠しい春の地面みたいな頭に額を押し付ける。

 

「じゃあ、おれを食うか。やり方は何度も見ただろう?おれがお前の身体になるんだ。食うところはすくねェが、きっとてめェよりおれは旨いぜ?」

「食ったらお前はなくなるだろう。嫌だ」

「お前もだよ、ゾロ。おれが食ったらお前はなくなる。食うって言うのはそういうことだ、もう何度だって見ただろう」

「おれが無くなったら嫌か、きつね」

 

 サンジの首筋に顔を埋めてふんふんと匂いを嗅ぐように呼吸をしていたゾロが、サンジの顔をまた覗き込んで聞いてくる。やっぱり「ひとりは嫌だ」なんて今更言うのは嫌だったから、声には出さずに頷いた。

 

「そうか。じゃあ、もう、どこにもいかねェ。傍にいる」

「……好きにすりゃあいい」

「なあきつね。噛んでいいか」

「なんだ、結局食うのかよ?」

「食わねえ。でも、てめェがまだ遠い。お前もおれを噛め。血を啜って、肉を噛んで、お前の一部にしろ。一口ならなくならねえ」

 

 果たしてこいつに痛覚という概念があるのだろうか、とサンジは苦笑いした。多分あの胸の傷をつけられてから、あれが痛みの最低ラインになっているのだ。アレより痛くなければ痛くない範囲に入るのだろう。

 

「そんなに、おれとひとつになりてェの」

「おれが帰ってこなきゃ、お前は冬を越せずに死んでただろ。……お前がおれがいない間に無くなるなんて考えたこともなかったのに」

 

 だからこんなに焦っているのか、とサンジは合点が行って溜息を付いた。そういえばサンジはゾロとしばらく一緒に暮らしていたが、碌な事を教えてやっていない。ウサギの血の抜き方とか、長期間保存する為の塩の仕方とか、本当はゾロを食うつもりだったとか、猫は不味いとか、そんな程度だ。ゾロはサンジの教えたことだけを覚えて、ただ一途に自分の身体に筋肉をつけて、サンジに食わせるためだけに生きてきた。図体ばかりでかくなって、でも、頭はまだまだ拾ったときとそうかわりのない、ガキのままだ。それを考えると、なんだか胸の奥がぎゅっとして、ああ、やっぱりこいつになら食われちまってもいいし、そんなに言うならこいつを食ってやりてェなあ、なんて思う。

 

 でも、サンジはゾロよりも何年も長く生きている。本能的になんだか興奮してしまって息を荒くしているゾロの頬を両手で包み込んで、唇をくっつけた。ゾロはそこを噛んだりしてこないサンジに不思議そうに尋ねる。

 

「……今のはなんだ?噛まないのか」

「口吸いだ。食っちまいたい相手とだけやることだ」

「今のはいいな。もっとやりてえ。でも足りねえ、なんだ?これ。おれからもやっていいのか」

「焦るな。ちゃあんと教えてやる」

 

 額をあわせて、サンジを閉じ込めようとする金色の双眸を見つめる。閉じ込めようとする、じゃない。思えばもうあの時から囚われていたのかもしれない。サンジは目を閉じて、ぺろ、とゾロの唇を舐めた。ゾロも同じようにサンジの唇を舐め返してくる。徐々に舌を口の中に引っ込めて隠すと、ゾロはむっと眉間に皺を寄せてサンジの唇をこじ開けて舌を追っかけてきた。なかなか教えがいのある生徒だ、サンジは薄く笑う。

 

 そのサンジの笑みの気配に気付いて、ゾロが顔を離してそれを見つめてなんだかもぞもぞしだした。サンジはもう大声で笑い出してやりたかったが、こういうのは「ムード」も大事なのだ。だから、精一杯何も知らないゾロにも解る様に、微笑んでやる。

 

「ひとつになろう、ゾロ」

 

 

 

 

 

 サンジは森一番の料理人だ。冬の間もゾロが取ってきた少しの材料でふたりの腹がいっぱいになるようなスープを作ってくれる。サンジはメスが大好きだ。でも、花の香りをさせてゾロを置いていく事はなくなった。サンジはきつねだ。きらきらの金髪の上に先っぽがちょっとだけ白い耳がつんと立っていて、そこを舌で擽ると怒ったようにゾロを睨んでくる。尻尾は付け根のほうが怒る。ゾロはそんな風にサンジを怒らせるのが好きだ。

 

 そして今はサンジはひとりじゃない。友達は大勢いるが、サンジの傍にいるのはたったひとりだけだ。朝起きるも夜眠るも、ふたりでやる。

 

 サンジは強いオスだが、なんだか間違ってオスとつがいになってしまった。動物は種を残してこそだ。その本能をないがしろにしている。そんな自分は未来ある可愛いメスともう一緒にはいられない。だからサンジはこれからずっとふたりだ。そしてこれからもふたりだ。ゾロと。

 

リリース日:2010/11/01

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