翼に奉げるノクターン

 ロロノア・ゾロという男は一言で言えば単純で一直線で己に素直な男だ。口に出す言葉がひねくれている時は大概その言葉は麦藁の一味の料理人であるサンジに向けられている場合であることが多い。

 

 やれ「おれの方が全てに置いて勝っている」だの、「料理しか取り柄がない」だの、サンジの感情を逆撫でするのが特技というかもはや趣味だと言っても過言ではないだろう。サンジが女に構っているときなど特にそれは顕著だ。合いの手のように余計な一言を挟んでサンジの注意及び反感を一手に買う。

 

 一方のサンジと言えば、ゾロとは対極にいる性格をしている。女に愛を囁く彼の言葉はもちろん本気のつもりなのだろうが、本人も意識しないどこか薄い壁のようなものがある。一方、ゾロに対しては素直だ。率直に罵詈雑言を放つ。売られた喧嘩は素直にお買い上げ、二人っきりの空間はつまらないと真剣に嘆く。

 

 互いにこれだけヒネクレているのに、やはり心のどこかでお互いを認めあっているのでしょうね……!

 

 今でこそゾロも目を覚まして一味も落ち着いているが、ある大事件を目撃した上でそう分析した新入りで最年長の音楽家ブルックの言葉に、分析対象の一人であるサンジがいれた紅茶を飲みながら聞くともなしに聞いていたナミが、ふへっ、と乾いた笑いを漏らした。

 

「しょうがないわよね、目、節穴だもんね」

「はっ、スカルジョークを飛ばす前に先手を打たれてしまいました!」

 

 目、ないんですけど!を見事に潰されたブルックはお姉さん座りで長い手足を折り曲げ、よよよ……と眼球が存在しない目元に指先を押しつけた。ナミの言葉をそのまま受け取るのであれば、ブルックの分析は間違っているということなのだろう。

 

「間違っていますか?」

「そうね。一人一人の分析は当たっていても、結論が間違ってんのよ。そのうちイヤでも理解するでしょうけど、気になるなら今日一日、こっそり二人を観察してみれば?」

 

 あの二人は戦闘の要であり、この船の両翼だと言っても過言ではない。人柄的には皆優しく強い男たちだとわかっているが、自分がこの船になじむためにはさらにもっと知る必要がある。

 

「わかりました、小さなことからこつこつと!」

「はいはい、骨だけにね」

「んナミさーん!ロビンちゅわーん!朝ご飯出来たよぉほほー!オラ野郎ども、飯だ!」

 

 天気予報を確実に当ててくる航海士にジョークのオチまで当てられながら、ブルックはとりあえずは腹が減っては戦は出来ぬと腹ごしらえとダイニングへ向かったのである。腹はなかったけれども。

 

 

「いっただっきまーふ!!」

 

 全部言い終わる前にすでに冬眠準備を始めるリスのごとき頬袋の膨らみを見せている船長を横目に、まずはブルックはサンジを観察することにした。出しても出しても満足しないかに思わせるクルーの食欲に一人で手早く対応しているサンジはまごうかたなき一流だ。

 

 流れるような動作でおかわりの皿をサーブし、チョッパーが落としたフォークをさりげなく新しいものと交換してやり、喉を詰まらせたウソップの手元に水を置いてやり、食べ終わりそうな女性たちにはフルーツをお届け。

 

 なるほど観察していれば今まで見えていなかった色々なものが見えてくる。食べ物は魔法のようにテーブルに現れているのではない。サンジが一つ一つ心を籠めて作っては提供してくれるからこその糧だ。

 

「今日の朝ご飯もすばらしいですねえ、サンジさん!」

「んぁ?おお、当然だろブルック。おかわりいるか?」

「はい、是非」

 

 骨のくせによく食いやがって、などと言いながらもサンジはブルックにおかわりをよそってくれた。本当に自分が作った料理を食べさせることが好きなのだなあ、とブルックは心が温かくなるのを感じた。もう一人の観察対象であるゾロも、このサンジの心遣いを理解しているのだろうか……そんな風に思い視線を読ませぬ眼孔でゾロを探したが、彼はこの場にいなかった。

 

「あれっ?」

「ん、どうしたブルック。おかわりいらねェならおれが貰ってやるぞ!」

「いやいやダメですよ!そうじゃなくて、ゾロさんがいらっしゃらないなと」

「あー、あいつァ昨日見張りだったからな。皆が起きてきたから寝ちまったんじゃねーか?」

 

 ゾロの寝汚さはまだ船に乗って数日と経っていないブルックでも知るところだ。一晩中起きていれば眠いだろうことは解る。サンジのことを観察して彼のプロ意識に感銘を受けたばかりのブルックとしてはそのゾロに対する態度には幾分首を傾げざるを得なかった。

 

 サンジは皆で食事を取ることに酷く拘るタイプで、それは気持ち的な問題もあるがあればあるだけ食べてしまう船長の存在が原因でもあるとブルックは思っていた。一緒に食べさせなければ後からまたその食べ遅れたクルーの分だけ作らねばならず、食料の分配が狂うのではと。が、当のサンジは何でもない顔で煙草をふかしている。

 

「ごっちそうさまでしたァー!」

「ごちそうさま、サンジ君」

 

 それぞれからサンジを受けながらハートを飛ばしたり蹴りを送ったりをすると、ブルックもダイニングを後にする。なにしろ観察はこっそりしなければ意味がない。あくまでも自然体の彼らを知ることがこの船になじむ近道なのだ。

 

 ダイニングに通じる丸窓から何気なくキッチンを観察すると、サンジは手際よく後片付けを終えて再び紫煙をくゆらせている。手元にあるのは湯呑みだろうか、どうやらお茶と煙草で一服中なのだろう。もう2、3時間もしたら昼食の準備を始めるのだろうから、おそらくそれまでの休憩だ。

 

「おや」

 

 ブルックがサンジを見守る間、見張り台から寝ぼけ眼で降りてきて、腹を掻きながらダイニングへ向かっていく姿を見せたのは朝食をボイコットした寝坊剣豪だ。ブルックは自然と視線を彼の寝癖のついた頭を見やる。どこでも眠る男ではあると知っているが、鉄の絨毯の寝心地は悪かろうに。

 

「おはようございます。朝食はもう終わってしまいましたよ」

「んぁ?……あー、そうか」

 

 特に惜しいことをしたと思う風でもなく淡々とブルックの声に答えると、ゾロはそのままサンジが一人の時間を楽しんでいるダイニングへと入って行ってしまった。案の定、喧嘩が勃発したようだ。

 

「てめェ!勝手に飲んでんじゃねェ!!」

「んだァ?あるモン適当に飲めっつったのはてめェだろ!!」

「あからさまにおれの前にあった茶だろうが、適当は「大ざっぱに」って意味じゃねェぞ「状況に応じて適切に」って意味だこの不適切マリモがァ!!」

「うごぉっ!!」

 

 寝起きだったからだろうか、それとも空腹だったからだろうか。開けられっぱなしだったダイニングのドアから入ったばかりのゾロがわりとあっさりと蹴り出され吹っ飛んで甲板へと転がり船縁にぶつかってその回転をようやく止めた。

 

「クソコックが……」

 

 忌々しげに唸ったゾロは、起きあがるのも億劫そうに寝返りを数回うって芝生の上で仰向けになると、そのまままた鼾とともに眠りに落ちてしまった。一連の行動は寝ぼけていたが故だと言われても納得できる落ち方だった。一方のサンジと言えば銜えていた煙草を灰皿に押しつけて茶を入れ直すでもなく仕込み作業に入ってしまった。

 

 はてさて、とブルックは首をかしげた。ゾロは本当に素直な男だから、人相が悪いにしてもわりと感情が顔に出るタイプだ。そのゾロが忌々しそうな顔をするということは実際に忌々しく感じているという事に他ならない。今のやり取りで言えば確実にゾロに非があると思われたが、眠る前に寄せられた眉間の皺は本人がそうとは思っていない証拠であった。

 

 新聞を読んでいるナミの横でバイオリンを弾きながら、ブルックは眉があれば八の字にしているだろう声音で泣き言を漏らした。

 

「ナミさん……私、自信が無くなって来ました」

「自分の見立てに?」

「えぇ。まあ、色々ある年頃ですから喧嘩もするでしょうが……なんかこう……子犬同士がキャッキャウフフなじゃれあいなんだと思っていたんですよ!でも、サンジさんはゾロさんが朝食を逃しても何も言わないし、ゾロさんはサンジさんに本気でイラついているみたいですし」

「あの狂犬二匹捕まえて子犬っていえるのもアンタくらいよ。……まあ、もう少し観察してみたら?」

「はあ……」

 

 ナミはまったく興味が無さそうだが、ブルック的には死活問題だ。この二人が本当に人間関係で問題を抱えているのであればお節介だとは言われそうだが年の功をもってして手助けもしてやりたいと思うし、本気でお互いがいい仲間だと気付いていないのであればそれを気付かせてやりたいと思った。

 

「よし、私、頑張りますよ!」

 

 バイオリンを弾くのをやめて弓を持った手をぎゅっと握り、ブルックは新たに闘志を燃やした。根底の部分がポジティブなのだ。そんなブルックを横目に、ゾロは毛布を持って展望台へ上がっていった。観察のしがいのない男である。

 

 

 

「おやサンジさん、今日は見張りでしたか」

「ん、おう。まだ起きてたか」

 

 夕食を終えておしゃべりや大騒ぎをすませて、すっかり日も落ちた夜。各々が部屋に引っ込んでいった後、ポットとカップを持ってサンジがキッチンからでてくるのを見つけたブルックはその後ろ姿に声をかけた。

 

 サンジがくわえた煙草の光がほんのりと彼の口元を照らしている。今日は曇り気味で夜は酷く暗いし、肌寒い。

 

「お前も起きとくなら紅茶飲むか?」

「そんな、今から見張りのサンジさんにそんなことを!出来ればポットで」

「ちったァ遠慮しろ!」

 

 ヨホホホ、と笑うとブルックはサンジが元々持っていたポットとカップを受け取った。自分の分はまた入れ直すのだろう、キッチンへまた引っ込んで行ってしまった。さすがに一流コックも水が沸く時間を短縮は出来ないが、その間に手際よくポットとカップを用意して、サンジは展望台へとあがっていった。

 

「さて」

 

 サンジは展望台に上がっていったが、もう一人この暗闇の中で眠っていない男がいる。ブルックのもう一人の観察対象、ゾロである。甲板で鍛錬しては眠り、展望台に上がっては引きこもって鍛錬しを繰り返していた男は今は船尾で暗い海を一人眺めていた。ブルックは長い足でそこまで赴き、サンジに貰った紅茶をカップに注ぐ。

 

「ゾロさん」

「ん?なんだ」

「紅茶、いかがですか?サンジさんにいれていただいたのですが」

 

 YESともNOとも言わずに、紅茶か、とゾロは繰り返したが、カップに注がれた紅茶を差し出すと躊躇なく受け取り、香りを楽しむでもなくがばっと喉へ流し込む。熱かろうにと驚いたブルックに、予想通り、あちぃ、とゾロは赤くなった舌を出した。

 

「いっぺんに飲んだら熱いですよ。私も猫舌ですし。舌、ないですけど!」

 

 ヨホホホホ、と笑ってもう一杯とジェスチャーをすると、ゾロは渋面でカップを差し出した。今度は船縁の平らな部分に置いている。冷めるまで待つのだろう。

 

「眠らないのですか?」

「昼間よく寝たからな」

 

 それはまあいつものことだが、昨日と今日は特によく眠っていた気がした。昨日はゾロが見張りの日だったから昼のうちに寝ておこうと思うのは解らないでもないが、今日はさっさと甲板よりは寝心地の良い男部屋へ行けばいいのに、とブルックは首を傾げた。ブルックの疑問に気づいたのか、ゾロは眉間に皺を刻む。

 

「今夜はクソコックが見張りだからな」

「ええ、先ほども展望台へ」

「あいつは……」

「はい?」

「……信用ならねェ」

 

 なんと、とブルックは静かにショックを受けた。ナミが言っていたのはこういう事だったのだろうか、と無い眼を細める。二人は解りあっていると思っていたし、バーソロミュー・くまとの一件で二人の見えない絆を知った気になっていた。

 

「……ゾロさん。サンジさんは…」

 

 それならばプランBだ。自分は二人が素晴らしい人間であることを知っているし、互いがそれを知らぬのならばそれはとても悲しいことだ。どうにかしてこのすれ違いを正したいと口を開くと、忌々しげにゾロは潮風で少し冷めた紅茶のカップをとって琥珀色の水面を見下ろしたまま、ブルックの言葉を遮った。

 

「テメェも見ただろうが」

「私が……?」

「あの野郎はいつも他人のことばっかり気にしてやがる」

「は……」

 

 口に出してしまえば苛立ちが押さえきれなくなったのか、ますます眉間の皺を深くしてため息にも似た深い息を吐いている。

 

「今朝だって、まだ日も上がってねェうちに握り飯なんか持ってきやがった。昨日今日とあいつァほとんど寝てねェ」

 

 ブルックははっと顔を上げた。ゾロは朝食をボイコットしたのではなく、サンジに先に朝食をサーブされていたのだ。だからサンジはゾロを起こさなかったし、ゾロも昼まで起きてはこなかったのだろう。

 

「サンジさんはショートスリーパーですか」

「ショ……?」

「短時間で充分睡眠がとれるタイプかな、と」

「そりゃ……おれよりは寝ない方だとは思うが、それでも人並みには寝るだろ」

 

 ふむ、とブルックは紅茶をすすりながらゾロの言葉に耳を傾けた。耳はないが。ゾロの「信用ならない」という台詞は、もしかしたら、別の言葉の方がしっくりくるのではないだろうか、と静かに口を開く。

 

「サンジさんのことが心配なのですね?」

「はァ?」

 

 言語自体が理解できない、とばかりの語尾の上がり方にブルックは再び自信がなくなりかけたが、それでも続ける。

 

「だからこそ、サンジさんが居眠りしてもいいように起きていらっしゃる」

「信用ならねェんだっつったろ!」

 

 間髪入れずにつっこんでくるゾロの肌は健康的に焼けて浅黒いが、それでも頬に朱が散っているのが解る。忌々しげに見える表情は、もしかしたらふてくされているだけなのだろうか。

 

 考えてみれば、この男はどこで眠っていても毛布や掛け布団などにくるまって眠るような繊細な男ではない。それでも、ブルックはこの無頓着男が毛布を持ってたった今サンジがいるはずの展望台へ上がったところを目撃しているのだ。その後降りてくるところは見ていないが、賭けてもいい。ゾロは毛布を持って降りてはいない。ナミあたりなら「賭けにならない賭はしないの」と断られそうだ。

 

 おそらくサンジはその毛布を誰が持ち込んだかは知らずとも、ありがたくそれにくるまっているだろう。誰かが出しっぱなしにしてそのまま忘れたものと思っているかもしれない。何しろ今夜は肌寒い、筋肉も脂肪も薄くしか付いていないあの細身にはこの冷えは堪えるはずだ。

 

「なにニヤニヤしてやがる……」

「いえいえ。サンジさんのいれてくださった紅茶は美味しいなと思いまして」

 

 ブルックの頭蓋にはニヤニヤできる肉は張り付いてはいないのだが、気配を察したらしいゾロの苦々しい表情にますます笑みが隠せない。ブルックはゾロの素直じゃない度合いを甘く見ていたという事だ。ナミが言いたかったのはこういう事だろうと紅茶をすする。

 

「おれは……」

「はい?」

「これも別に悪かねェが、おれは緑茶の方が好きだ」

 

 ふう、と最後に残った湯気さえも吹き飛ばしてからゾロはやはり紅茶を一気のみした。その姿を見て、ブルックは再び笑い出したいほどの笑みが浮かぶのを奥歯をカタカタ鳴らして耐えた。耐えたが。

 

「クソコックには言うなよ。あのバカの事だ、緑が緑の茶をどうだのこうだの言うに決まってる。うぜェ」

 

 勝手に想像して勝手にムカついているゾロに、ぶ、とついに吹いてしまった。なんだ、とゾロはさらに不機嫌そうにブルックをにらむ。

 

「あんだよさっきから!」

「ヨホホホホ!いえいえ!ただ、サンジさんはもうご存じでらっしゃると思いますよ!」

 

 ゾロが緑茶を好むことも、猫舌であるという事も。そしてそれは多分、彼が一流であるという以上の理由で。

 

 苦虫を噛みつぶしたような顔のゾロからカップを受け取り、ブルックはゾロに背を向けた。流しにカップとポットを置いたら、ほんの少しだけサンジが居眠りをできるように子守歌を弾きに行こうと思いながら。

 

 

 

 

「ナミさん」

「なに?」

「私、解っちゃいました」

「知らなくても良い事をね」

 

 お二人は信頼しあっているという以上に、お互いを気遣って、愛し合っているのですねぇ……と、感極まったように言うと、向こうの方で二人がいつも通り喧嘩をしている事に気がついた。遠慮のない大声が聞こえる。

 

「やっぱりテメェ居眠りしてやがったじゃねェか!」

「知らねェ間にオチてたんだよ、誰かに一服盛られたとしか思えねェ……ってか、テメェが無駄に起きてやがったんだからいいだろうが!人の髪アホみてェに馬鹿力で引っ張りやがって、テメェみてェにハゲたらどうしてくれる!!」

 

 喧嘩の内容も、それを理解できた今となってはブルックがそれに気を揉むこともない。

 

「翻訳は要るかしら?」

「そっと見に行ったらサンジさんが眠っていらして、頭を撫でていたら目を覚まされたのでうっかり引っ張ってしまったと言うところでしょうか」

 

 サンジさんが眠っちゃったのは私の仕業なんですけど!と笑うと、ナミは楽しそうに「よくできました」と笑って、ブルックに手を差し出した。

 

「パンツでも見せてくださるので?」

「授業料。得たいものを得るには対価が必要なのよ」

「ヨホーッ!!私、持ち合わせがありませんので!これでご勘弁を」

 

 そういってバイオリンの弦に弓を当てて見せると、ナミは呆れたように肩を竦めたが、口元に笑みを浮かべその手を引っ込めて新聞に目を落とした。

 

「今回だけよ」

「ええ、もう後は犬も食わないと申しますし」

 

 以降は手出し口出しは自重いたします、そう言ってブルックが古い舞踏曲を奏でる中、二人は喧嘩を続けている。その突き出される脚や、凪ぐ刀の煌めきが、まるで踊るようだと思ったからだ。案の定、よく似合う。

 

 だが、二人にはもう一つ弾いてやりたい曲があったので、ブルックは少し伴奏のテンポを速めて二人の動きの調子を乱してやった。サンジは一流のコックで、ゾロは一流の剣士だが。

 

「うおっ…!?」

「……コック!」

 

 打ち合う音が消えて、ガタン、と何か大きな音。そして、沈黙。ナミは何気なく新聞を持ち上げて自分の視界をふさぎ、隣のブルックへと文句を漏らした。

 

「手出し口出しは自重するんじゃなかったの?」

「音を出さないとは申しませんでしたのでね、ヨホホホ!」

 

 ブルックだって一端の音楽家だ。音楽一つで人の脚をもつれさせるくらいはやってのけるのである。舞踏曲は切り上げて、この沈黙にうってつけの甘い夜想曲を奏でてやった。

 


(Special thanks みどりさん。クリックで原寸)

リリース日:2010/09/22

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